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15:無添加商法と石けん

高度成長期(1965~1974年)に次々と起こった公害などによって、水俣病、ヒ素ミルク中毒事件、イタイイタイ病、カネミオイル事件など化学物質による大きな事件が起こりました。

また、過去には安全性に問題があったり、品質をごまかすような目的で使われた添加物が使われて多くの人々に健康被害を与え、化学物質に対する不信感が添加物に対しても「悪」とのイメージを持ってしまったと考えられます。

その結果、消費者にとって「無添加」が1つの商品価値として確立し、石けんも商品価値として「無添加」を大きくアピールすることになりました。

ほかの商品にはない高い価値を訴えることで、消費者の支持を得ようとすることは商行為として当然認められるものです。

しかし、消費者の誤解や無知につけこむ、すなわち、「添加物=悪」「無添加=安全なもの」のイメージを利用することは、悪質な無添加商法といえます。

●無添加石けんとは

無添加石けんとは、石けん分が、固形の場合95%以上、粉状は94%以上で、香料や色素、防腐剤、アルカリ助剤が入っていない石けんのこと。

では無添加がベストなのか。必ずしもそうではありません。

化粧石けんはグリセリンや糖蜜などの保湿剤などが「添加」されている方が肌に優しい。

無添加の石けんが特別に肌に優しいということではないのです。

無添加の石けんが良いのは、石けん分だけだから、手肌に優しく、身体や食器を洗ったり、ちょっとした洗濯など、何にでも使えるというだけのこと。

純石けんだけで洗濯をしていると、洗濯液が酸性に傾いて石けんカスができやすくなり、カビや衣類の黄ばみで悩まされることになる。

だから、汚れに負けないようにアルカリ剤が「添加」されている。

お米だって、白米よりも麦が「添加」されている方が身体には良い。

米へんに白と書く漢字は「粕」(カス)と読みますが、白米ばかり食べているとビタミンB1不足で脚気になります。(注)

ある石けんメーカーの工場長に「無添加の洗濯用石けんは作るべきではない」と話しました。

すると、

「炭酸塩入り粉石けんの洗浄力が優れているのは重々承知です。ただ、多くのお客様から無添加が欲しいと言われれば、メーカーとしては作らない訳にはゆきません」

との答えが返ってきた。

何をか言わんやである。要は売れればいいのだ。

石けんの中で、洗濯用の石けんはもっとも多量に使われる日常品です。

いま石けんメーカーに求められるのは、できるだけ少量で使いやすく、洗浄力をもつ石けんを開発し、安定的に供給することではないだろうか。

消費者の誤解を利用して、高くて使いにくい無添加の洗濯用石けんを作り、販売することではないでしょう。

特に、昼も夜もない授乳やオムツ交換などで慌ただしい毎日をおくる育児ママにとっては、無添加石けんでの洗濯は苦行にしかならない。

石けんは、数ある化学物質の中でも、人に対する安全性が確かめられている数少ない化学物質のひとつです。

しかも、日本の水道水は世界でも稀に見る石けんが使いやすい軟水です。

その非常に恵まれた洗濯条件を存分に生かし、石けんを正しく使えば、環境への負荷を減らしながら、その洗浄力の高さと仕上がりの良さを堪能することができる。

無添加の洗濯用石けんは優れた洗剤である石けんを愚弄するものだ。

かって石けんが主流だった時代に、過当競争のため助剤が大半で石けん分がわずかという粗悪な石けんが作られたことがありました。

「純石鹸分99%」「無添加」の洗濯用石けんを売るということは、品質の高さを謳いながら、実は石けんの特性を全く無視した商品を売ることであり、昔の粗悪な石けんを売ったことと何ら変わらない悪質な商法だ。

それは、消費者の信頼を裏切り、さらなる石けん離れを招き、結局は自らの首を絞めることになるのは目に見えている。

日常生活の中で洗剤を適切に効率よく使いこなすためには、多分野にわたる知識が必要です。

洗濯や洗剤について調べだすと、界面活性剤、助剤、アルカリ、酸、CMC(臨界ミセル濃度)、硬度、イオン、カチオン、ノニオン…などなど化学用語が続々と出てきます。

化学が苦手な人にとっては、まさにお化けでうんざりしてしまうでしょう。

タチの悪い業者にとっては、そこがねらい目かもしれません。

どうせ解らんだろう、と。

だから、メーカーの宣伝文句を鵜呑みにしたり、思い込みで製品を選ぶのではなく、科学に基づいた賢い判断をして製品を選ぶことが大切なのです。

(注)脚気。ビタミンB1の欠乏によって起こる栄養障害性の病気。精米して胚芽をとり除いた白米にはB1はほとんど含まれていないので、白米ばかり食べているとB1欠乏となる可能性がある。江戸時代の中ごろから白米食の習慣が普及したため、脚気の病因がつきとめられ、その対策がとられるようになる大正時代ころまでは、脚気は日本全国において多発し、毎年2万人以上が脚気のために死亡したという。
出典:平凡社世界大百科事

次回は「16:水道水質基準と石けん」です。

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